マクロ経済スライドってなに?

 今回は国の年金額の決定、改訂の仕組みについて説明いたします。

 年金制度は加入してから年金を受けるまでに数十年と言う長い期間がかかります。初めて保険料を納めてから老齢年金を受けるまでの間には、賃金や物価などの経済環境は大きく変化していきます。また、国の終身年金を受け始めてからも経済状況は大きく変化するものと予想されます。

 国の年金は、このような経済状況の変化を現在価値に換算し年金額が決定されます。65歳になり新たに年金を受ける際には、過去の給与は、現在の給与水準に換算され年金額が決定されます。また、年金を受け始めてからは、毎年の物価に応じて年金額が見直されます。

 今までは物価の変動が直接年金額に反映されてきましたが、平成16年の年金制度改正により、社会全体で年金制度を支えることができるよう年金額の調整が行われるようになりました。賃金や物価が下がった場合はその下落率に応じ年金額を下げますが、上がった場合は賃金や物価の上昇率に応じた年金額の増額は行われず、一定の調整が行われることになりました。これを「マクロ経済スライド」と言います。この原因は大きく分けて二つあります。一つは少子化により保険料を負担する現役世代の人数が減少しているからです。もう一つは、高齢化が進み平均寿命が伸びて年金を受取る人が増加すると同時に、受給期間も延びているからです。今までのように賃金や物価に直接連動する方法を採り続けていますと、現役世代が減少して行くにもかかわらず、受給期間が延びて年金の総額が増加し、国の年金財政が圧迫されるからです。このように相反する現象をどのように調整して行くのでしょうか。大きく分けて、次の3段階があります。

 

1. 物価が大きく上昇した場合は、一部調整されますが、ある程度物価の上昇を反映し、年金も増額されます。

 

2. 物価の上昇が小さい場合は、年金額は据置かれることになります。

 

3. 物価が下落した場合は、調整は行われません。今までと同じように、物価が下がった率と同じ率で減額されます。

 年金額の見直しの原則は、物価上昇率と賃金上昇率を比較し、低い方の数値が適用されます。

 2014年度の物価上昇率の数値は2.7%、2014年度の賃金上昇率の数値は2.3%でした。従って、2015年度の年金額の見直しは、物価上昇率の2.3%が適用され、夫婦2人のモデル年金額は本来月額219,066円が225,304円になる予定だが、2015年のマクロ経済スライドによる調整率は▲0.9%でした。マクロ経済スライドにより、実際は221,507円に抑えられた。

 また、2000年度から2002年度までの3年間、実際には物価が下落していたのも係わらず、年金額は下げずに据え置かれました。年金を引き下げることで高齢者から反発が出ることを恐れた当時の自公政権が、高齢者優遇の政策として取り入れました。このもらい過ぎ年金は9.8兆円にも達しましたが、このもらい過ぎの年金を解消しました。従って、2015年の年金額の改定は、下表のとおりとなりました。

 今年の6月給付分(2016年4月・5月の2か月分)年金額の改定はどうなるでしょうか?

 昨年(2015年)の物価上昇率は0.8%、賃金上昇率は▲0.2%、今年のマクロ経済スライドのスライド調整率は▲0.7%(昨年は▲0.9%)となりました。給付と負担の長期的な均衡を保つため、賃金水準がマイナスで物価水準がプラスになる場合は、現役世代の保険料負担能力が低くなっていることに着目し、スライドなしとすることが規定されており、マクロ経済スライドによる調整はおこなわれませんので、年金額の増減はありません。(但し、計算時の四捨五入の方法が変更になりますので、221,507円は221,504円となります)

田坂康夫(社労士・CFP・1級DCプランナー)